研究概要
当研究室では、「自己組織化」「分子認識」「ナノテクノロジー」に焦点を当てて研究を行っています。主に使用している材料は、DNAやタンパク質などの「生体分子」と金属原子がナノサイズの塊になった「金属ナノ粒子」です。
生体分子は、DNAの二重らせん構造やタンパク質が持つ標的物質の特異的な認識に代表されるように、高度な自己組織化・分子認識システムを持っています。また、金属ナノ粒子は光を照射することで「局在表面プラズモン共鳴」という現象を起こします。近年、この現象を利用した様々な光応答性材料が作られています。金属ナノ粒子の光応答性は粒子が集合化したり、規則正しく配列したりすることによって、1つ1つの金属ナノ粒子には無い特別な機能が発現します。そのため我々は、生体分子の持つ特徴(自己組織化、分子認識)と金属ナノ粒子を組み合わせることにより、これまでにない新しい機能性材料を創ることに取り組んでいます。
最近の研究テーマ
ナノ粒子の自己集合化の高度な制御
金ナノ粒子は自己集合することによって光応答性が変化します。そのため、溶液中における金ナノ粒子の自己組織化は、薬剤輸送・光材料・センシング材料などへの応用につながる手法として期待されています。私たちは、金ナノ粒子の表面に様々な分子を修飾して表面物性を制御することで、多様な自己集合の実現を目指しています。
例1:ナノ粒子のカプセル状集合体(ナノ粒子ベシクル)の薬剤輸送(DDS)への応用
Ref:J. Am. Chem. Soc. 2012
ACS Appl. Mater. Interfaces 2013
J. Am. Chem. Soc. 2016
例2:疎水性相互作用を用いた金ナノ粒子の自己集合制御
Ref:Langmuir 2015
J. Phys. Chem. C 2016
Small 2018
可動型プラズモンセンサーの創製
金ナノ粒子はお互いが近接することで、そのギャップ部分に「ホットスポット」と呼ばれる増強電場が発生します。このホットスポットの中では、様々な光学特性が増強されると言われています。中でも物質のセンシングに使用されるラマン散乱は、元々のシグナルが弱いため、このホットスポットを利用して強いラマン散乱を得ることでセンシング材料への応用が期待されています。
ホットスポットの強さは金ナノ粒子間の距離に依存します。粒子同士が近いほど高い増強が得られますが、ギャップが狭いことで標的材料がギャップ部分に入りにくくなってしまう欠点があります。我々は外部刺激に応答して体積が変わるハイドロゲルの上に金ナノ粒子を固定し、金ナノ粒子間の距離を可逆的に制御することでセンシング材料へ応用することを目指しています。
例1:ハイドロゲルの伸縮を利用した高感度バイオセンシング
Ref:Adv. Opt. Mater. 2016
Nanoscale Adv. 2019
直鎖状高分子を利用した異方性粒子の集合・向き制御
金ナノ粒子の中でも棒状の金ナノ粒子(金ナノロッド)に代表される異方性金ナノ粒子は、球状金ナノ粒子にはないユニークな性質を持っています。例えば、金ナノロッドは照射した光に対する向きが変わると、表面プラズモン特性が変化することが知られています。我々はガラス基板に直鎖状の高分子(DNAなど)を固定して、基板に対して高分子がまっすぐに伸びた材料(高分子ブラシ)をテンプレート(型)とすることで、金ナノロッドを一方向に並べることに成功しました。現在は、金ナノロッドのプラズモン特性を利用した光学材料の創製を目指し、基板上に一方向に並んだ金ナノロッドの位置や向きを自在に制御することに取り組んでいます。
例1:DNA固定化基板をテンプレートとした金ナノロッドの配向制御
Ref: ACS Omega 2017
Langmuir 2020
Nanoscale Adv. 2020
DNA被覆による細胞への機能付与
DNAは相補的な配列を特異的に認識してハイブリダイゼーションしたり、二重らせん構造の中に蛍光色素を導入して強い蛍光を発したりするような、他の高分子にはない特別な性質を備えています。私たちはこのDNAの性質を利用した細胞の機能化に取り組んでいます。
例1:DNA伸長酵素を利用した細胞の高感度蛍光修飾
例2:DNA伸長酵素を利用した細胞への機能性付与